COLUMN

2012.09.15田口 智博

産・学の技術価値化へのアプローチ

 "産学連携"という言葉を聞くと、随分以前から使われているように感じる人も少なくないだろう。その狙いは言わずと知れた、企業が技術シーズや高度な専門知識を持つ大学と連携して、新商品開発や新事業創出を図ることである。それによって、企業側は専門家の知識・経験・スキルを得ることができる。また、大学側は研究成果や特許を社会へ還元できるという、互いのメリットにつながる。このような産学連携のアプローチは、現在も新たな成果の創出を目指してさまざまなところで推進されているであろう。
 
 つい先日の8月下旬、大阪にてボストン大学ビジネススクールの講師招聘による、「研究開発の事業化・ベンチャーアセスメント」セミナーおよびワークショップに参加する機会があった。その中身は、大学にてビジネス化へ向け有望視されている技術を実際に用いて、新事業・起業・技術移転につながるプランニングを行うというものであった。また、産学連携にとどまらず、ベンチャー設立も念頭に技術の事業化提案を作り上げていく趣旨が盛り込まれていた。
 
 私の加わったグループでは、医療機器の診断画像の精度向上に優位性がある技術をベースに、どのようなビジネスモデルが構築可能か検討していくこととなった。まずグループのメンバーで技術内容の理解を深め、事業創出の可能性分析の進め方を確認するところからスタートした。そして、実際に事業を行う上で取引関係となりそうな医療機器メーカーや医療機関などをリストアップし、電話やメールによる問い合わせを中心に順次ヒアリングを進めた。
こうしたダイレクトな調査は個人的には初めてに近かったが、大学からのコンタクトは好意的に受け入れられ、思いの外、問い合わせ先からは技術への関心度合いや実際の検討状況、また競合他社を含む市場動向まで幅広く話を聞くことができた。さすがに大手メーカーともなると、今回ターゲットとしている画像精度向上には、明確に技術開発の優先度を位置づけて自社で取り組みを進めている。担当者からは「今回の大学の技術がどれほど素晴らしいものにせよ、その部分での技術開発に現時点では興味はない」と、はっきりとした答えが返ってきた。
しかし、そうした一つ一つの情報が事業創出の可能性検討に活かせることになる。今回の技術では医療機器トータルの開発メーカーではなく、その中の特定箇所の開発を進めているところと話をすればよいのではないか、いう方向性がみえてきたのだ。事実、該当するメーカーへコンタクトを取ると、技術への関心は非常に高く、その領域でのビジネス化の可能性を見出すことにつながった。
 
 この一連のビジネス化検討では、最終的に事業機会はあるものの、ベンチャー設立までは困難である。ライセンシングによる技術供与が妥当との確認を行うに至った。
 しかし、その一方であらためて大学が保有する成果や特許に関して、それらを活かした新商品開発や新事業創出へのポテンシャルを感じ取れる機会となった。
 
 産学連携が上手くいかない問題点として、「技術シーズに関する情報発信が少ない」といった指摘がよく見受けられる。今回のような取り組みを振返ってみると、大学と企業の間で、技術の実用面での優位性について確認し合う機会を持つことは、連携の推進に向けた取っ掛かりとなりうることがわかる。ちょうど前回コラムで"リスクをばねに"というフレーズがあったが、ここでの産学連携はそもそもリスクを低減させ、事業化を加速させる仕組みのはずである。大学から企業への一歩踏み込んだアプローチによって、優れた技術が、価値ある商品やサービスへと実を結ぶことを切に望みたい。
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