COLUMN

2013.03.01鷲尾 梓

「2.5世帯住宅」にみるサバイバル戦略

 「2.5世帯住宅」--新聞広告の文字が目にとまった。3階建ての大きな家の写真に、家系図のイラストが添えられている。描かれているのは、老夫婦と、息子夫婦にその子ども2人、そして、息子の姉の計7人。高齢の親と子育て世帯の同居が中心だった従来の「2世帯」に、独身の息子や娘も一緒に暮らす居住形態を提案するのが、「2.5世帯住宅」なのだという。住宅メーカーの旭化成ホームズが昨年発売したものだ。
 実はこのような住宅が登場する前から、「2.5世帯」が同居するケースは存在していたのだという。同社の調査によれば、2世帯住宅の約17%で、すでに2.5世帯が同居していた。すでにうまれつつあった新たな家族の形を受け入れる器としてデザインされたのが、「2.5世帯住宅」というわけだ。
 「0.5世帯」にあたる単身者用に設けられた部屋には、洗面化粧台やウォークインクローゼットが備えられ、他世帯と生活リズムが違っても快適に暮らせるようにと、玄関から直接個室にアクセスできるよう動線をデザインするなどの工夫がされている。将来独立した際には、親世帯の個室や、子世帯の子ども部屋への転用が考えられている。
 魅力は、住宅の購入コストを分担できることや、光熱費や食費の節約など、経済的なメリットのほか、家事や介護、育児に相互に協力が得られること、災害時や急病時など、いざというときの安心感が得られることにある。大家族の中で暮らすことで、子どもがより高い社会性を身につけることも期待されている。大家族で身を寄せ合うことで足りないものを補い合い、様々なリスクから身を守ろうとする、いわば現代のサバイバル戦略を、住まいという器に反映したものと言える。
 核家族は人類にとって普遍的なものといわれており、たとえば、縄文時代の遺跡として有名な三大丸山遺跡の竪穴式住居も、夫婦とその子どもからなる平均4〜5人の家族が生活をしていたものと推測されている。しかし、周囲には一族がともに生活をして、実態的には大家族的な生活であったと考えられている。江戸時代の一般庶民も、近隣に血縁を同じくする人々が大勢いて、農作業をはじめ、助け合いながら生活をしてきた。現代の核家族、特に郷里を離れて都市部で生活する核家族は、孤立した核家族という点で、古来の核家族とは異なる不便さやリスクを抱えている。
 実は、今では一般的になっている「2世帯住宅」も、1975年、わずか38年前に旭化成ホームズが銘打ったものなのだという。今日私たちがあたりまえと思っている家族の在り方や住まいの在り方は、実は変化し続ける中のひとつのかたちにすぎないのかもしれない。
 少子化が進み、夫婦ともに一人っ子で、それぞれの親の介護を担うことになるケースも増えてくる。夫婦とそれぞれの親世帯を合わせた「3世帯」、さらにはそれに兄弟姉妹が加わった「3.5世帯」、「4.0世帯」、などという家族のかたちも登場してくるかもしれない。あるいは、親や兄弟といった血縁関係の有無にこだわらず、価値観やニーズの一致する相手と共に暮らし、助け合うことを選ぶ人も増えていくのかもしれない。プライバシーの確保と、シェアすることによって得られる豊かさという、相反する価値を両立する新たな住まいのデザイン技術と、なによりも私たちの自由な発想が、その可能性を広げていくだろう。サバイバルの知恵が盛り込まれた住まいの在り方が今後どうなっていくのか、興味深い。
 
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