COLUMN

2013.10.15中野 善浩

自転車ネクスト世代

世界最大の自動車ショーのひとつ、フランクフルト・モーターショーがこの9月に開催された。世界各国の自動車関連企業が競い合って、未来に向けた最新の技術を披露する。今回のショーでは、電気化と自動運転に大きな焦点が当てられていようだ。バッテリーやITなどの性能は今後も向上するだろうから、紆余曲折はあれ、電気で走る自動車は増えていき、いずれ自動運転も普及するだろう。そのようなハイテク志向のショーのなかで、異色の展示があった。それはドイツのファイン・モービル社のTwike というスポーツ・ビークルである。
  
  Twike は前一輪・後二輪の車高の低い小型車で、ボディは流線型である。一見すると自動車のように見えるが、自転車の機構を発展させたもので、動力は人力とバッテリーのハイブリッド方式でまかなわれる。すでに1人乗りタイプはヨーロッパで市販されており、今回のショーでは、2人乗りタイプが近々、市場に投入されると発表された。これらの車両は、人力が主要動力であり、走行性能はドライバーに依存するために、標準的データとして示すことはできない。ただし最高時速は70~80キロに達し、航続距離も十分にあるという。1人乗りタイプで、電気自動車の航続距離を競うコンテストに出場したところ、500キロ超を記録したそうだ。以下のウェブサイトでは、じつに楽しげに走行する様子が紹介されている。 
市場投入済みの1人乗りタイプ http://www.twike.com/
近々販売予定の2人乗りタイプ http://www.tw4xp.com/
 
 直感的に理解できることであるが、自転車での移動に必要なエネルギーは、徒歩に比べ明らかに小さい。重心の移動がなく、筋肉の動きを車輪の滑らかな動きに転換できるからである。歩くより、ずっと楽である。当然のことであるが、自動車に比べて、格段にエネルギー消費量が少ない。すなわち大きな荷物がなければ、身近な移動において、自転車はもっともエネルギー効率の高い移動手段なのである。
 
ただし自転車には弱点もある。運転者を覆うものがなく、雨が降ると濡れる。転倒や接触により、運転者が怪我をすることもある。出だしの加速が弱く、登り坂でも苦労する。しかし技術的に、これらの弱点を克服することは、そう難しくことではない。車高の低い三輪とし、運転者をすっぽり覆う軽量車体にすれば、転倒や接触のリスクを減らすことができ、走行時の空気抵抗を小さくできる。性能アップが著しいバッテリーを有効に使えば、出だしや登り坂でのスピードも確保できる。ちなみにTwikeは、日本の電機メーカーのバッテリーを使っているそうだ。
 
広く普及する交通手段のなかで、自転車のエネルギー効率がもっとも高い。適度な利用は、運転者の健康にも好ましい影響をもたらすことになる。何より運転しやすい。そうだとすれば、自転車の可能性を深く追求することは自然の流れである。欧米では、Twikeの他に、自転車を発展させたビークルをつくる企業は少なからず存在する。 
 
 日本では、道路交通における自転車の位置づけが不明確であり、自転車の可能性を追求する機運が生まれにくい。だからこそ逆に、従来の自転車を超える次世代タイプが出てきてほしいと思う。自転車の良さ、高い性能などが改めて認知されれば、道路交通のなかに明確に位置づけていこうという動きも出てくるだろう。このところ電動アシスト自転車の販売台数が堅調に増加し、つい最近、二輪車の販売台数を上回った。風は吹いている(写真提供:FINE Mobile GmbH)。
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