COLUMN

2014.03.15内藤 真紀

使おう、行間を読む力

  先月、「シナリオ・プランニング」を初めて体験した。オムロングループのいくつかの組織から数人ずつが集まり、「10年後のセンシング&コントロール環境」というテーマで未来シナリオづくりに挑戦したのだ。
このセッションでは、対話を通じて生まれた4つの異なる未来シナリオを「カバーストーリー」の手法でまとめるまでを体験。カバーストーリーとは、各シナリオの世界観のもと「メディアの特集記事として掲載されるとしたら?」を想像して形にするものだが、これが面白かった。
 
まず、「10年後」という設定のため、ある程度自由に想像ができること。「表紙に掲載される見出し」「記事の見出し、リード」「本文」「関係者のコメント」「写真」「補足データ」などのためにイメージを具体的にしていく必要があるのだが、これが楽しい。また、それまでの10年間に何が起きてどう変化してきたか、というところまで思いを馳せることにもなり、想像の「10年後に起きていること」や「登場人物」に自然に感情移入ができてしまう。
数人のメンバーと「こんなのはどうだろう」「そのときはこうなっているよね」「うちの会社はこういうところで役立つわけだ」とワイワイと話し合えるのもまた楽しい。シナリオをつくる過程を共有しているので、出されるアイデアにあまり説明がいらない。だから活発にアイデアが生まれたり膨らんだりし、メンバーの「熱」のようなものも維持される。
他のチームがつくった違うシナリオのストーリーを聞くのも印象深い体験だった。短い説明にもかかわらず、豊かな情報を得た感触がもて、説明を手がかりに想像も広げられることに驚かされた。作者以外も参画して、建設的な意見を出し合ったり、具体的な行動に発展させることができそうで、今後につながっていく可能性が感じられた。
 
他チームのつくったシナリオの世界観を容易に想像でき、その具体化に主体的にかかわることができそうに感じるのは、そのシナリオの出来上がってきた背景をともに体験してきたからだろう。また、ストーリー仕立てになっているのがポイントで、自分の主観・客観両方の情報を補完しイメージを豊かに再構成できるから、というのも大きな理由に違いない。
ふと周りを見渡せば、職場に氾濫する方針や目標などに、想像力をかきたてられるもの、自分なりに再構成して共感したり意欲的になったりするものは多くはない。想像力豊かに曲解されても困るのかもしれないが、どんな状況を実現させるためにこの仕事があるのか、という生き生きとしたストーリーがあれば、方針や目標を受け取る側の姿勢も変わってくるのではないかと思う。スープ専門店「Soup Stock Tokyo」が、物語仕立ての事業企画書「スープのある一日」から生まれたのは有名だ。
 
情報には、正しく過不足なく伝えなければならないものもあれば、解釈の幅を許容できるものもあるだろう。後者のほうが、より「自分ごと」にできるような気がする。人間には行間を読み、イメージを膨らませ、そこから行動をドライブする力がある。この力をもっと信じ、使っていければいいと思う。
PAGE TOP