COLUMN

2015.01.15内藤 真紀

1万時間を豊かに過ごす

 先日の成人の日は、2020年の東京オリンピック開幕まで2020日にあたったそうだ。国の代表を狙うアスリートたちが心技体を磨き、運営上のさまざまな課題をクリアするのに、2020日は十分な時間であってほしい。
 
「1万時間の法則」というのがある。スポーツでもアートでも、特定の分野で熟達するにはおよそ1万時間の練習が必要だとする、マルコム・グラッドウェル氏の説だ。たとえば年間労働時間1,800時間(1日当たり約5時間)で換算すると1万時間達成はおよそ2000日後となる。いまから新しい仕事に集中して取り組み続けたら、東京オリンピックのころには一人前になってなにがしかの業績を上げられているかもしれない。
 
努力の先に希望や可能性が開けていると信じられ、目標をもち続けることができれば、1万時間の質は高まるだろう。しかし、希望をもって能動的に費やすことができない場合は結構な苦痛だし、成果は限定的になろう。
当社がかかわった企業社員対象の調査で、「仕事を楽しめていない」とする人のうち、もっとも多い理由が「目先の仕事で手一杯だから」というものだった。やりたい仕事、時間を使いたいことがあるものの、他の業務で忙殺されていると感じているようだ。では「目先の仕事」を掘り下げていくと、「無駄な仕事」「目の前のことへの対応」などが挙げられている。何を無駄と感じるかは状況次第だろうが、社内手続き用の書類作成や関係者の調整、他部門と重複している仕事などをできるだけ排除し効率化すべきという意見が散見された。
同じ調査で「より挑戦する会社になるために必要なものは何か」を尋ねているのだが、こちらにも時間に関する提案が少なくなかった。たとえば、「業務の効率化」「社内手続き業務の極小化」「現在の業務を一歩踏み出すような創造的な活動に費やせる時間の確保」、などだ。
 
業務に習熟するにも、さらに新しい価値を創造していくにも、一定の時間は必要だ。いかに質の高い時間をつくりだすかが、社員の働きがいや組織の価値創出のカギとなろう。一方で、今後、低スキルの人でも熟練者のスキルを簡単に再現できるようアシストする技術や、ロボットそのものが熟練者を代替するような未来が広がっていく。これからの1万時間をどのように豊かに使っていくか、考えどころである。
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