COLUMN

2016.08.01田口 智博

人とロボット、それぞれの進化から受ける驚き

 この夏は今月5日に、ブラジル・リオデジャネイロでのオリンピックの開幕が控えているところだ。これから2週間少しの間、現地での日本人選手の活躍をはじめとするさまざまなニュースがもたらされるであろう。2016年の8月の記憶は、後々振り返るとオリンピックの出来事と何かしら結び付いて印象に残ることもあるはずだ。
 
 そうした時節柄、先日、NHKのオリンピックに関連する番組を見ていて驚いたことがあった。ご覧になった方もいると思う中、それはシンクロナイズドスイミングのナタリア・イーシェンコというロシア選手にスポットを当てたものであった。過去2大会の北京、ロンドンのオリンピックで既に金メダル獲得という輝かしい実績を残していることから、その競技レベルの高さは周知の事実である。
そんなイーシェンコ選手が今回取り上げられていたのは、人並み外れた身体機能の高さにあった。そもそもシンクロナイズドスイミングは、水中で行われる競技という性質上、その演技は無呼吸時間との闘いとまで言われている。実際、演技では約3分もの間呼吸を止め、しかも激しいパフォーマンスを繰り広げているのだから、おのずとその凄さは私たちの想像を遥かに超えたものだ。
これまで一般的に競技能力は、トレーニングの賜物であると考えられてきたそうだ。しかし、番組ではそれに加えて、イーシェンコ選手が水中で酸素のタンクとして、肺だけでなく脾臓を使っていることが特筆すべき力であると紹介していた。水中生物に限ってみると、脾臓は水中に長時間いる際、酸素を多く含んだ血液を心臓へ送る役割を果たしているという。イーシェンコ選手の脾臓データからは、潜水時には一般の人のそれよりも59%も大きく縮み、酸素を送り出しているとの裏付けがなされていた。まさに、そこにはハードなトレーニングの継続が、人体の進化というべき身体機能の向上までもなせる業としているところにビックリさせられた。
 
 ところで、最近もう一つ、今度は人ではなくロボットで驚いたことがあった。そのロボットはというと、今ではもう広く知れわたり、ロボットの中では老舗といっても過言ではない本田技研工業のヒューマノイドロボットASIMOである。今回、ちょうど日本科学未来館を訪問した際、ASIMOの実演を間近に見る機会に恵まれた。
 ASIMOというと個人的には9年前という随分昔に、栃木のツインリンクもてぎで行われたイベントのオープニングで見て以来というご無沙汰であった。そんな状況で目にしたASIMOは、横歩きやダンス、ボールを真っ直ぐに蹴るといったさまざまな動作を繰り出し、会場を盛り上げていた。また、近頃は、手話動作もスムーズに出来るようになっているという。今回、館内を案内して下さった未来館・事業部プログラム企画開発課の永田さんにお話を聞くと、「ASIMOの手話は、ろう学校の先生が見学されても綺麗な動きの手話だと褒められるんです」というレベルだそうだ。しばらく見ないうちにというのも変だが、外見はそう変わらないものの、その中身や立ち振る舞いの格段の進化に当然ながらビックリさせられた。
ASIMOの会場は夏休み前という時期にもかかわらず、親子連れや小学校の生徒達、また海外からの観光客などで賑わいをみせていた。実演が終わった時には、会場からASIMOへ自然と惜しみない拍手が送られるという光景も新鮮に映った。
 
オリンピックといえば、選手の躍動シーンに感動が付きものである。ふとASIMOの進化を横目にしながら、それと同じようにロボットの一挙手一投足に人が心を動かされるというのも、それほど不自然なことではなくなるのかもしれない。
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