COLUMN

2017.03.01中間 真一

ライフワーク、それともライスワーク

 ここ最近、世界中で「働き方」への関心が高まっているようです。社会、技術、経済、様々な世界的な激変の渦中だからこそ注目されているのでしょう。私もけっこう気になっているので、働き方についてボンヤリ考えていることを述べてみます。

 さて、アメリカでもヨーロッパでも「雇用」すなわち「働き方」に関する話題が施政者の大きな関心事となっています。我が国では、首相自らが議長をつとめる「働き方改革推進会議」も昨年9月にスタートし、同一労働同一賃金や、時間外労働の上限規制、女性や外国人の働きやすい環境整備など9テーマについての議論が進められています。ぜひとも、エッジの利いた現実味ある成果を期待したいところです。

 このような国を挙げての取り組みの根底には、日本の経済成長と豊かな社会への政府のマクロな視点がありますが、このコラムでは働き手という、ミクロな視点から働き方のとらえ直しの端緒について語ってみます。そこで真っ先に考えたくなるのは、「多様な働き方をすることが『あり』になる」社会です。ここで言う「あり」とは、多様な働き方をしても「損」をしない、得になる、幸せになると言い換えてもよいことです。

 まず、働き方のマジョリティを概観すると、既に「正社員の夫と専業主婦に子ども」という、世帯単位の働き方は過去のものとなりました。共働き世帯数は、2000年代に入って明らかな増加傾向を続け、同時に男性片働き世帯の数は減少傾向を続けています。1980年の両者の関係(共働き614万世帯に対して男性片働き1114万世帯)は、一昨年2015年にみごとに逆転(共働き1114万世帯に対して男性片働き687万世帯)しました。デフォルトは「共働き」に完全に変わったのです。
 また、正規職員・従業員と非正規の比較では、1997年から正規社員は減少を始め、非正規社員は80年代から増加を続けており、2015年では働き手全体の約4割が非正規社員となったのです。
 私自身のサラリーマン生活と重なる、80年代から現在に至る間も、様々な働き方の議論や施策が打たれてきました。HRIの研究テーマでも、テレワーク、サテライトオフィス、ワークシェアリング、インディペンデント・コントラクター(雇われない働き方)、ワーク・ライフ・バランス等々に先駆けて取り組み、書籍等でも発信し続けてきました。しかし、どうしても働き方のスタンダードは、終身雇用制の「メンバーシップ型正社員」とする価値観は根強くあって変化は進みませんでした。

 そのような中、「多様な働き方をありにする」ために重要なのは、「ジョブ型正社員・夫婦共働き」をデフォルトとして、豊かで不安のない暮らしを営めることが、かなり重要なことではないかと思っています。もちろん、「多様性」を大事にするのですから、従来の「メンバーシップ型」や、雇われない働き方も否定しているわけではありません。

 最近、「ライスワーク(Rice Work)」か「ライフワーク(Life Work)」か?という問いをよく耳にします。60歳に近い私の周辺だからかもしれません。「生活のために働くこと」か、「自分の使命を感じて続けて働くこと」か?という、働き方の判別基準ですが、理想を言うなら、両者を分けずに、重ね合わせて働きたいと思うはずです。まさに、これを理想から現実に引き込むことが、真の働き方改革ではないでしょうか。
 その最も重要なことの一つには、「ジョブ型正社員」がデフォルトとなる改革だと思っています。もちろん、「ジョブ型」で働くということは、プロフェッショナルな働き方ですから、常に学びやキャリア形成の努力を持続させることが必要です。その働き方は、ライスワークかライフワークを選び取るものでなく、「ライクワーク(Like Work)」と言ってもよいでしょう。自分のやりたいことで糧も得られる、好きな仕事をする働き方です。もちろん、そこには甘えた依存は入り込む余地はありません。自律した自らの成長が必要です。厳しすぎるかもしれませんが、手遅れになると取り返しがつかなくなります。
 リンダ・グラットンさんは、人生100年時代の生き方設計の中での働き方を考える時代だと言っています。AIもすごくなるでしょう。そんな未来を生き抜くには、やはり、遊ぶ、学に、働く、これら3つが渾然一体となった生き方に自らシフトしていくことではないでしょうか。
PAGE TOP