COLUMN
2020.03.03小林 勝司
地球温暖化とココロの健康について考える
地球温暖化が、人間の精神的健康に悪影響を及ぼしていることをご存じだろうか。ここ数年、米国を中心に、地球温暖化とメンタルヘルスの関係性について様々な調査や論文が公表されている。
例えば、2018年に米国政府主導で実施された第四次全米気候調査（NCA4）※1においては、気温上昇、異常気象、海面上昇を要因としたメンタルヘルスへの悪影響について言及されており、とりわけハリケーンが引き起こすトラウマの発症が課題視されている。また、翌19年、アメリカ米国精神医学会総会（APA 2019 Annual Meeting）※2においては、気候変動とメンタルヘルスに関連したテーマが６つも取り上げられ、社会的インパクトが徐々に高まりつつあることを物語っている。
ここで、地球温暖化とメンタルヘルスに関連した興味深いファクトを幾つかご紹介したい。オンライン科学ジャーナル『nature human behaviour』によると、快適な気温（22℃前後）で育った人間は、極端な気温の中で育った人間に比べ、社交性や安定性（協調性や統制性、情緒的安定性）、自己成長や可塑性（外向性や開放性）に関する性格因子が高いスコアを示すそうだ※3。要するに、気温が人間の人格形成に大きな影響を与えているというのだ。
また、『MIT Technology Review』※4の記事によると、海面水温が平年より高く暑い日の多いエルニーニョの年は、海面水温が平年よりも低く涼しい日が多いラニーニョの年に比べ、熱帯地域内における内戦の発生率が高いことを指摘している。さらに、気温が約20度を超えると、ソーシャルメディア上のツイートによる冒涜の比率が高まるとも指摘しており、地球温暖化による人間の社会的交流への負の影響について言及している。
また、米イエール大学が19年4月に公表した調査レポート『Climate Change in the American Mind:April2019』によると、対象者の約62%が地球温暖化について「ある程度は心配している」、約23 %が「非常に心配している」と回答したとし、8割を超えるアメリカ人が何らかの不安感を抱いていることを明らかにした※5。さらに、こうした調査結果に関連して、米国人のジャーナリスト、David Wallace-Wells氏は、著書『The Uninhabitable Earth』※6の中で、人々の気候変動への不安が、「気候鬱」「気候心労」を引き起こしていると指摘している。
そして、米スタンフォード大学は18年7月、アメリカとメキシコにおいて、暑い気候が、ソーシャルメディア上における抑うつ的な発言と自殺率を上昇させているというセンセーショナルな調査結果を発表した※7。同大学は、さらに将来的な地球温暖化が、自殺率に如何なる影響を与えるか算出し、その結果、2050年まで平均気温が上昇すると、自殺率が米国で1.4%、メキシコで2.3%増加すると予測した。
このように、米国の政府機関や学術機関を中心に、地球温暖化とメンタルヘルスの関係性を指摘するエビデンスを数多く公表しており、新たなレピュテーションが形成されつつある。ファインディングは大きく2つに分かれており、地球温暖化が醸成する不安感に伴うメンタルヘルスの顕在化と、洪水やハリケーンといった大規模自然災害によるトラウマ、PTSDの発症である。これらのファインディングは、不確実性は高いものの、社会的インパクトは極めて高く、今後、災害対策や食料危機と並び、地球温暖化をテーマとした重要課題となっていくに違いない。HRIとしても様々な視点から地球温暖化を社会課題として深掘りして参りたい。
参考資料
※１『NCA4』 https://nca2018.globalchange.gov/
※２『APA Annual Meeting』 https://www.psychiatry.org/psychiatrists/meetings/annual-meeting
※３『nature human behavior』 https://www8.gsb.columbia.edu/cbs-directory/sites/cbs-directory/files/publications/Regional%20ambient%20temperature%20is%20associated%20with%20human%20personality.pdf
※４『MIT Technology Review』 https://www.technologyreview.jp/s/18819/hotter-days-will-drive-global-inequality/
※５『Climate Change in the American Mind:April2019』https://climatecommunication.yale.edu/wp-content/uploads/2019/06/Climate_Change_American_Mind_April_2019c.pdf
※６『The Uninhabitable Earth』 http://nymag.com/intelligencer/2017/07/climate-change-earth-too-hot-for-humans.html
※７『Stanford News』https://news.stanford.edu/2018/07/23/warming-temperatures-linked-increased-suicide-rates/
例えば、2018年に米国政府主導で実施された第四次全米気候調査（NCA4）※1においては、気温上昇、異常気象、海面上昇を要因としたメンタルヘルスへの悪影響について言及されており、とりわけハリケーンが引き起こすトラウマの発症が課題視されている。また、翌19年、アメリカ米国精神医学会総会（APA 2019 Annual Meeting）※2においては、気候変動とメンタルヘルスに関連したテーマが６つも取り上げられ、社会的インパクトが徐々に高まりつつあることを物語っている。
ここで、地球温暖化とメンタルヘルスに関連した興味深いファクトを幾つかご紹介したい。オンライン科学ジャーナル『nature human behaviour』によると、快適な気温（22℃前後）で育った人間は、極端な気温の中で育った人間に比べ、社交性や安定性（協調性や統制性、情緒的安定性）、自己成長や可塑性（外向性や開放性）に関する性格因子が高いスコアを示すそうだ※3。要するに、気温が人間の人格形成に大きな影響を与えているというのだ。
また、『MIT Technology Review』※4の記事によると、海面水温が平年より高く暑い日の多いエルニーニョの年は、海面水温が平年よりも低く涼しい日が多いラニーニョの年に比べ、熱帯地域内における内戦の発生率が高いことを指摘している。さらに、気温が約20度を超えると、ソーシャルメディア上のツイートによる冒涜の比率が高まるとも指摘しており、地球温暖化による人間の社会的交流への負の影響について言及している。
また、米イエール大学が19年4月に公表した調査レポート『Climate Change in the American Mind:April2019』によると、対象者の約62%が地球温暖化について「ある程度は心配している」、約23 %が「非常に心配している」と回答したとし、8割を超えるアメリカ人が何らかの不安感を抱いていることを明らかにした※5。さらに、こうした調査結果に関連して、米国人のジャーナリスト、David Wallace-Wells氏は、著書『The Uninhabitable Earth』※6の中で、人々の気候変動への不安が、「気候鬱」「気候心労」を引き起こしていると指摘している。
そして、米スタンフォード大学は18年7月、アメリカとメキシコにおいて、暑い気候が、ソーシャルメディア上における抑うつ的な発言と自殺率を上昇させているというセンセーショナルな調査結果を発表した※7。同大学は、さらに将来的な地球温暖化が、自殺率に如何なる影響を与えるか算出し、その結果、2050年まで平均気温が上昇すると、自殺率が米国で1.4%、メキシコで2.3%増加すると予測した。
このように、米国の政府機関や学術機関を中心に、地球温暖化とメンタルヘルスの関係性を指摘するエビデンスを数多く公表しており、新たなレピュテーションが形成されつつある。ファインディングは大きく2つに分かれており、地球温暖化が醸成する不安感に伴うメンタルヘルスの顕在化と、洪水やハリケーンといった大規模自然災害によるトラウマ、PTSDの発症である。これらのファインディングは、不確実性は高いものの、社会的インパクトは極めて高く、今後、災害対策や食料危機と並び、地球温暖化をテーマとした重要課題となっていくに違いない。HRIとしても様々な視点から地球温暖化を社会課題として深掘りして参りたい。
参考資料
※１『NCA4』 https://nca2018.globalchange.gov/
※２『APA Annual Meeting』 https://www.psychiatry.org/psychiatrists/meetings/annual-meeting
※３『nature human behavior』 https://www8.gsb.columbia.edu/cbs-directory/sites/cbs-directory/files/publications/Regional%20ambient%20temperature%20is%20associated%20with%20human%20personality.pdf
※４『MIT Technology Review』 https://www.technologyreview.jp/s/18819/hotter-days-will-drive-global-inequality/
※５『Climate Change in the American Mind:April2019』https://climatecommunication.yale.edu/wp-content/uploads/2019/06/Climate_Change_American_Mind_April_2019c.pdf
※６『The Uninhabitable Earth』 http://nymag.com/intelligencer/2017/07/climate-change-earth-too-hot-for-humans.html
※７『Stanford News』https://news.stanford.edu/2018/07/23/warming-temperatures-linked-increased-suicide-rates/
