研究員コラム

2021.05.02田口 智博

ソーシャル・イノベーションにつながる思考の型

 ここ数ヵ月、“ソーシャル・イノベーションをどのように創造していくか”をテーマに、社外の研修プログラムを受講している。コロナ禍では、こうしたプログラムもオンラインでのやり取りが中心となるが、今回はその活動から感じることについて少し触れてみたい。

 そもそも、「ソーシャル・イノベーション」とは?また、よく企業の中で耳にする「イノベーション」との違いは何なのか?そんなところからみていくと、ソーシャル・イノベーションは、一般的には、社会問題に対する革新的な解決法を指す。どうやら、これまで社会問題に端を発する課題解決を担ってきた行政・企業・NPOなどの個別の取り組みが限界を迎える中で、ソーシャル・イノベーションという言葉が用いられるようになってきているようだ。
 特に、現在の複雑で不確実性を増した社会では、停滞や対立、断絶、多極化といった機能不全を起こしている事象が数多く見受けられる。そのため、社会の根本からより良い状態へとシフトさせていく必要性が、私たちに強く訴えかけられようとしている。そして、ソーシャル・イノベーションには、従来型の解決法よりも、効果的・効率的かつ持続可能であり、創出される価値が社会全体にもたらされる類のものが大いに期待されているというわけだ。

 ちょうど弊社では、この1月に「OMRON Human Renaissance vol.1」(※)と題して、オンラインイベントを開催した。そこでは、(株)インフォバーン代表取締役CVO・小林弘人氏をゲストにお招きし、これからの社会への問題提起をいただいた。印象的であったトピックスの一つとしては、「世界は近代の枠組みのままで駆動されている」というお話があった。そこでは、UberやAirbnbなどに代表されるマッチングサービスは、使いやすい労働力の搾取を助長するものであり、本来目指すべきシェアリング・エコノミーではないとの具体を交えた指摘がなされた。まさに、現状は旧態依然として、雇用する側と働く側が対立構造となっていて、その関係性を司るオペレーティングシステムは、旧バージョンのまま更新がなされていないことに言及されたのである。

 こうした問題提起は、社会は一見すると変化しているように思えるが、実はその中身をしっかりと見抜いていく必要がある。良い側面だけをみていては、その逆効果として生じている側面を見過ごしてしまう。そんなメッセージに他ならない。
 そうした中、現在受講しているプログラムでは、社会の根本に目を向けていくための示唆があった。一つには、まず個人が認識力を高め、社会全体を構造としてどこまで捉えていくことができるか。二つ目には、その構造において、実際の社会で巻き起こるリアリティを内包したものへと仕立てていくことができるか。この2点が、ことソーシャル・イノベーションの実践においては欠かせないという。

 とはいえ、こうした思考をしていくには、まずもって「認識力を高める」というそのスタートを切るところが容易ではないと痛感するところだ。自身の日常を思い返してみても、職場や家庭、プライベートといった限られた環境や関係性の中では、視点や視野を広げにくく、どうしてもバイアスのかかった物事の捉え方に陥りがちだからである。
 あらためて、思考を巡らせるプロセスの実践なくしては、問題の本質を見抜き、解決すべき問いを設定するまでには到達できないとの認識に立たなければならないだろう。こうした研修プログラムの機会を通じて、そんな“思考の型”を自分なりに確立していきたいと思うところである。
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