COLUMN

2021.07.01田口 智博

理想とする消費者像をいかにイメージできるか

 「農業に関する課題とは?」という問い掛けに、真っ先に何が頭に思い浮かぶだろうか?いち個人、あるいは、社会の視点から考えていくと、「農作業による身体への負担が大きい」、「自然相手のため決まった休みが取れない」、「儲からず、生計がそもそも成り立ちにくい」、「家族経営中心で人手が不足」、「担い手の高齢化とともに、後継者がいない」等々、そこにはさまざまな課題が挙げられる。
 「衣食住」と表現されるように、人が命を繋いでいく上で欠かせない“食”。極めて重要な役割を担う農業が、なぜこれ程に課題まみれといっても過言ではない状況に陥っているのか。ちょうど農業をテーマに社会課題を考える機会を得て、6月中旬に北海道の豊浦町という地域をフィールドに定め、関係者の生の声を伺うなど現地をみてきた。

 豊浦町は北の大地と呼ばれる北海道に位置しながら、イチゴの栽培が盛んな土地である。実際、「豊浦いちご」の名前で商標登録がされ、北海道内で最も伝統あるブランドイチゴにもなっている。ただ、完熟してから収穫するため、北海道以外の地域には出回らず、ご存知ない方も少なくないだろう。豊浦町ではイチゴ以外にも、三大ブランドとしてホタテや豚肉が地域の特産品となっている。
 そんな一次産業を主とする地域では、農業は町の未来を考えていく上で欠かせないものとなっている。役場では、総務省の制度「地域おこし協力隊」を利用して、“イチゴの町”への新規就農者の受け入れに力を注いでいる。また、地域おこし協力隊の任期である、3年という期間を農業技術の習得に充てられることは、新規就農者にとっても大きな利点として歓迎されている。

 しかし、冒頭での農業にまつわる課題は、ブランドイチゴをもつ豊浦町においても例外ではない。単純に、イチゴを栽培できるようになるだけでは、農家として自立できるほど現実は甘くないからだ。というのも、豊浦イチゴは、収穫時期が春先の5~6月の時期に限られる。そのため、新規就農者には、イチゴにプラスαとなる作物を決め、生計を安定させていくことが欠かせない。イチゴというと、稼げる農作物というイメージをもっていたが、確かに2ヵ月の収穫期だけでは困難が立ちはだかるのも頷ける。
 ただ、そのイチゴも、最近の農業従事者の減少とともに、収穫量の低下、また品質の面で課題を抱えているとの現場の声が聞かれた。やはり農作物を商品として販売する以上、それをいかに価値あるものとして認知してもらい、購入してもらえるかが大きな鍵を握る。

 現地では、新規就農者への技術指導を行い、みずからもイチゴ栽培に取り組む親方と呼ばれる方にインタビューする機会があった。その中で、コロナ禍の影響から、最近は贈り物としてイチゴを直接注文してくださる消費者が増えている変化があるそうだ。すると、そうした消費者の「美味しかった」という反響が直に届き、そこからまた注文が入るという好循環が生まれているという。農作業に加え、商品発送に向けたパック詰めや梱包作業など多忙を極めているとのお話の中にも、嬉しさが滲み出ていた様子が印象的だった。

 農作物の購入の際、消費者からは生産者の顔が見えるものを買いたいとの声が多く聞かれる。また、ネット販売では、消費者から生産者へのフィードバックがなされるケースも少なくない。
 今回、豊浦町のイチゴ農家の方のお話からは、コロナ禍の外での食事がままならない状況下で、家庭で食されるイチゴというものの価値が、その光景とともに生産者のもとへ届いている。それは生産者冥利に尽きるはずだ。このように自身が作った農作物を消費する人の姿をイメージして、商品が出荷できれば、その訴求価値は確実に高まるに違いないだろう。コロナ禍で訪れた農業の現場から、あらためて価値の創り方、伝え方という重要性を強く感じた。
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