COLUMN

2021.08.02小林 勝司

過去から学ぶ未来

先日、東洋経済ONLINEのとある記事に目が留まった。タイトルは「パナソニック社長が『過去』を研究し続ける真意~停滞続く巨艦が松下時代から失ったものは何か」といったセンセーショナルな内容である。今年度、就任されたばかりの楠見社長CEOは、同社の成長回帰を賭け、パナソニック社の源流と過去の「松下時代」に学ぶ姿勢を鮮明にしたと言う。

過去から学ぶ未来。一見、矛盾しているかのようにも見えるタイトルであるが、今、当研究所においても、社会におけるオムロンユニークな価値の創出を目指し、改めてオムロン創業者である立石一真の思考や行動を読み取り、継承・深化させる研究活動を推進している。何故ならば、ますます不確実性が高まる未来に対して企業はどう対処すべきか、その仮説を構築するには、自社の成功体験や失敗体験など、歴史を紐解くことが有効なのではと考えたからである。

オムロンには、「立石一真創業記念館」があり、そこには創業者のベンチャースピリットや企業理念に込められた想いが記された膨大な文書が保管されている。言うまでもなく、それらの内容は全て、“過去”のものに他ならないが、創業者や先人達が、どのように“未来”を捉え、どのような意志決定をしたのか、理解を深めることは可能だ。例えば、オムロンが重視する価値観である「ソーシャルニーズの創造」は、元々、世界初の無接点近接スイッチの開発という1つの点から始まり、サイバネーション技術という線を築き、そして、交通管制システム、駅務システム、バンキングシステムといった面に発展し、結果的に、深刻化する交通戦争・人手不足・流通革命といった社会課題の解決に大きく貢献したことがモデルケースとなった。こうした発展プロセスは、かつてスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で演説し、今日ではP&Gをはじめ名だたるグローバル企業が実践する“Connecting The Dots”の原点と言って過言ではない。

では、こうした過去の事実認識は、私たちに何をもたらすのか。それは、一言で言えば、事業発展の要件の再確認である。上記の例で言えば、新たな点となり得る技術を開発することや、その点と点を結び、面となるビジネスモデルを確立すること、さらに、社会課題を解決する情熱を持つこと、などである。こうした要件の中で、もし今、失われているものがあれば、それらを取り戻すことで事業は発展するはずだ。何故ならば、既に成功体験があるからである。過去から学ぶ未来とは、最も確実性の高い未来戦略の構築を可能にすることである。
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