COLUMN

2021.10.07小林 勝司

過去から学ぶ未来(2)

先月、「過去から学ぶ未来」と題し、オムロン創業者である立石一真とApple共同設立者であるスティーブ・ジョブズとの間に意外な共通点があることを紹介した。未来への兆しという“点”をいち早く察知し、点と点を技術という“線”で繋ぎ、“面”として社会で発展させる、所謂、“Connecting The Dots”という思考プロセスだ。今月は、スティーブ・ジョブズの10回目の命日の月でもあり、引き続きこの点を掘り下げてみたい。

1960年代、立石一真は訪米を機に、キャッシュレス社会への兆しを察知し、電子自動販売機を開発、キャッシュディスペンサ―などのバンキングシステムへと発展させた。一方、スティーブ・ジョブズは、2000年代初頭、モバイルコンピューティングへのドラスティックな変化を察知し、iPhoneやiPadを開発、たった一つのデバイスであらゆる生活の営みが可能となる社会を切り拓いた。

実は、この2人が望んでいた未来像には類似点が多い。立石一真は経営理念として「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」と掲げ、来るべきキャッシュレス社会に向け、「人類が昔、食料を追う遊牧民であったように、クレジットカードを持った文化高き遊牧民化するだろう」と予測していた。一方、スティーブ・ジョブズは、「コンピュータとは、知性を自由にする自転車のようなもの」「テクノロジーと人間らしさの交差点に立ち、人間が毎日の生活に取り入れて使いたくなるものを作る」と語っていた。要するに、この2人が望んでいた未来像とは、テクノロジーによって人間がより創造的な活動を営むことのできる社会であり、であるからこそ、その実現に向けた思考プロセスも共通していたと考えられる。

では、より創造的な活動を営むことのできる社会とは如何なる社会なのであろうか。立石一真の“遊牧民化”をヒントに考えるならば、誰もが1つの生き方や考え方に縛られることのない社会の実現と言えるのではないだろうか。つまり、仕事やライフスタイルの多様な選択肢を誰もが持ち続けられる社会であり、いくつになっても人生の刺激を得ることの出来る社会であり、如何なる立場であっても行動制限のない社会である。

しかしながら、先人たちから学ぶは易し、実現する当事者は私たちであることを忘れてはならない。
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