COLUMN

2006.10.01鷲尾 梓

幸せは近くにあるもの 幸福度世界一の国から

 「世界幸福地図」というものがあると言う。イギリスのレスター大学の社会心理学者が、シンクタンクのデータをもとに各国国民の「幸福度」を順位付け、作成したものである。これによると、日本は178カ国中90位。1位は、北欧のデンマークだ。

 各国の基礎データや、国際機関による既存の報告書を分析したこの研究からは、「良好な健康管理」や「高い国内総生産(GDP)」、「教育を受ける機会」「景観の芸術的美しさ」「国民の強い同一性」の条件が整った国の国民は「幸せ」と回答する傾向が強いことが示されている。2位はスイス、3位はオーストリアと続く。中国の82位、インドの125位など、アジア各国は比較的順位が低い。

 この順位が、それぞれの国の国民の実感とどれだけ合致するのか、またそもそも、「幸福度」を順位付けすることが可能なのかどうか、という疑問を抱きつつも、「デンマーク」という国名は、特別な響きを持って私の心に残っていた。

 今回、デンマークを訪れる機会に恵まれ、この国が「幸福度世界一」といわれる理由を探ってみることにした。3日間の短い滞在時間の中でも、その中には数々のヒントを見出すことができた。

 金曜日の昼下がり。そこには、ビールを片手に友だち同士でお喋りを楽しむ人々の姿や、幼稚園の迎えに行き、子どもの手をひいて歩く父親の姿、公園の中をジョギングしたり、犬の散歩をしながら思い思いの時間を過ごす人々の姿、よく手入れされ、色とりどりの花が咲く庭で、のんびりとお茶を飲む人々の姿があった。

 「日常の中で満たされている」それが、デンマークの人々の暮らしを目の当たりにして最も強く感じたことであった。「やってくるこの毎日が人生だと知っていたら!」とは、デンマークではなくスウェーデンのことわざだが、デンマークの人々の暮らしにも、この言葉がよくあてはまる。

 彼らは、自分らしく、人間らしい時間を過ごすために、「週末」や「夏休み」を待たない。毎日の暮らしの一瞬一瞬が、自分らしく、人間らしい暮らしであることを大切にしているように見える。オフィスの照明器具や家具は、家のリビングと同じように、温かみがあり、心地よいものが選ばれている。それは、オフィスで過ごす時間が日々の生活の重要な一部であること、働いている毎日、一瞬一瞬が「人生」であることが意識されているからにほかならない。

 「幸福度世界一」の人々は、毎日、一瞬一瞬が「人生」であることを知っている人々なのではないだろうか。雑誌などで盛んに取り上げられている「自分の時間」という言葉が、ある特定の時間や日常から離れた場所を指すものではなく、自らの暮らしのすべてを指す言葉になったとき、日本の「幸福度」は今より高くなっているのではないかと思う。
(鷲尾梓)
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