COLUMN

2009.12.01中野 善浩

シリーズテーマ「働き方」#5働く力の基礎をつくる競技スポーツ

 前回コラムのテーマは「残業ゼロ」。同じことはスポーツにも当てはまる。練習の量より、質が重要。そして練習の質を高めることは、働く力の基礎を築くことになる。いま住んでいる関西の視点から。

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 今秋、アメリカンフットボールの関西リーグを制したのは関西大学カイザースである。わが母校K都大学は、かつては日本一に4度輝いた。しかし近年は低迷気味で、今期は第6位。すんでのところで下部リーグとの入替え戦出場を免れた。
 関西大学カイザースの大きな特徴は、チームの規律が高いことである。大学卒業後もアメリカンフットボールで生きていける人間は、ごく一部に過ぎない。だからアメリカンフットボールを通じて、社会で通用する人間を養成することに大きな重きが置かれている。それは対外的にも発信されており、例えばチームのホームページでは、知育、徳育、体育という3つの理念が掲げられ、それぞれ説明がなされている。また、礼儀・モラルの向上、文武両道、地域貢献などの7つの具体的な活動方針も示されている。これらは競技をレベルアップさせる要素であり、社会で働くときの力にもなる。

 さて、母校K都大学のアメリカンフットボール部が黄金期にあった1980年代から90年代にかけて、海の向こうのアメリカ大学スポーツ界は、いわゆる荒れた状態にあった。そこでライフスキル・プログラムという教育体系がつくられた。競技に偏ることなく、アスリートたちに学業も励ませながら、いっぽうでコミュニケーション、問題解決、自己管理などの能力を養成するプログラムで、まずは某大学のアメリカンフットボール部で導入され、文武両面での成果を生み出し、各地の大学に広がっていった。
 格闘家として活動するボブ・サップもライフスキル教育を受け、地域活動に従事した経験があるそうだ。彼は大学時代にアメリカンフットボールの選手として活躍し、プロリーグに入団したものの怪我に悩み、わずか3年で引退を余儀なくされた。しかし別の分野で、個性を生かす方法を見つけ出し、新たな道を切り開いた。ライフスキル、すなわち生きる術、働く術を持っていたのである。

 関西大学カイザースは、アメリカのアメリカンフットボールに由来するライフスキル教育の影響を受けているのか。それはわからない。しかし取り組んでいる内容は、ライフスキル教育そのものだと思う。また最近では、例えばサッカーJリーグのジュニアチームのように、まさにライフスキルという名称のプログラムを実施する動きも出でてきている。ジュニアに入団できても、全員がJリーガーになることはできないのである。
 ライフスキル教育は、WHO(世界保健機関)でも提唱されており、その目的は健全な生活習慣の獲得である。近年は、学校教育でも採用されている。ただし、もっとも大きな効果が期待できる分野は、競技としてのスポーツではないだろうか。あくまで勝敗は結果に過ぎないが、競技スポーツにおいては、それぞれのレベルでの勝利が目標となり、それは関係者が単純に共有できる目標となる。高みをめざし一丸となる。勝利は喜びになり、敗れても、全力が出せれば、一定の充足感も得られ、みずからに欠けていたものを知ることができる。

 働き方を確かなものにするには、ライフスキルという考え方は非常に重要である。そして競技スポーツがライフスキルの習得に大きな役割を果たすことができる。だとしたら健全な競技スポーツをもっと振興すべきだと思う。

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 次回のコラム担当は澤田さん。当社研究員のなかでは最年少で、元気に競技スポーツに取り組める世代である。
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