COLUMN

2010.05.15田口 智博

シリーズテーマ「幸せ」#4幸せを見つめ直す動き

 「ギブアンドテイク」という言葉があるように、すぐに何かしらの見返りを求めるのではなく、まず相手に与えて尽くす。すると、必ずしも同じ相手からではないにせよ、回りまわっていずれ自分にも恩恵が巡ってくる。結果、お互いの幸せにつながっていく。前回のコラム"『幸福な王子』にみる幸せのカタチ"で触れられている、「幸福感は人から人へと伝染していく」とは、このような心掛けの連鎖によっても実現されていくであろう。

 先日5/3付けの日本経済新聞を見ていると、"研究進む『幸福の経済学』"との見出しが目に留まった。その数日前には、内閣府から国民生活選好度調査の結果として、日本人の幸福度は10点満点で6.5ポイントと発表されている。記事では、幸福度への関心はフランスなどの他国でも高いという。欧州28ヵ国平均となると、2008年調べでは日本より高い6.9ポイントだそうだ。
 そんな幸福度について、これまでは曖昧な指標と見なされがちであった。しかし最近では、経済政策の成果を測る指標としても有効であると、経済学者の間でも意見が一致してきているという。それは健康・教育・個人活動・環境など客観的な条件が、私たちの幸福度を左右することによる。幸せの感じ方は人それぞれ千差万別であるとはいえ、確かに何かしらそうした要因に辿り着くはずである。今後、GDPや失業率などの指標とは異なる、人々の満足や幸せ度合いの指標化が、物事を捉える新たな物差しとなりうるだろう。ただ、政策目標として幸福度がすべてということにはならず、客観と主観の両指標をいかに上手く活用できるか知恵の働かせどころにはなる。

 4月下旬、京都では『京都の未来を考える懇話会』という30年ビジョンを検討する会が立ち上がり、初会合の場が持たれた。京都の各界を代表するメンバーが、未来について、現在の延長線上ではなく、30年先から今に立ち返って考える。私も事務局スタッフの一員として担当することになったが、オール京都で、皆が一緒に目指していきたいと思える京都の未来像を語り合い、熟成させていくことを趣旨に掲げる検討の場だ。
 議論では、京都ならではの"地域モデル"の必要性が説かれるとともに、生活の質など、どう良くありたいかという"クオリティ"を考えていくことが確認された。さらに、それに伴って京都独自にこれまでとは違った目指すべき指標を設けてはどうか、といった提起もなされようとしている。これはちょうど、前述の幸福度にみられる政策目標に関する話と重なる。「住み良い地域とは」、「誇れる地域とは」――。人々の幸せにまつわるこれからの地域のあり方に向けた議論に期待がかかる。

 幸福への足掛かりを見い出し、政策等に活かすことができないだろうかという、こうした議論が散見されるようになってきている。以前、目にしたニュース番組では、街行く人々に「あなたにとっての幸せとは?」と訊ねる様子が伝えられていた。多くのコメントからの共通項として、「人から必要とされる実感」、「家族・友人・コミュニティの価値の認識」が浮かび上がるそうだ。幸せに対する意識が高まる中、最初に触れた、まず"誰かに与えて尽くす"という心持ちで人に接することができれば、身近なところから世の中は和やかになり、そして幸福感が溢れてくるのではないだろうか。
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