COLUMN

2010.08.02内藤 真紀

シリーズテーマ「予兆」#3"they"に接近する"I"の増殖

 夏休みも本番、通勤電車に家族連れの姿も見られるようになってきた。夏休みといえば、四苦八苦した宿題を思い出す。なかでも自由研究にはてこずり、毎回休みも終盤の終盤になってやっと着手したものだ。この「研究員コラム」も、前もって考えていながら締切間際になってから書き始めるあたり、自由研究に似ているかもしれない。

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 前回のコラムで田口さんが紹介した「社内の公用語を英語にする」企業のひとつが、ファーストリテイリングだ。同社は先月、グローバル戦略をうかがわせる取組みをさらに発表した。グラミン銀行と提携し、「バングラデシュにおける社会的課題(貧困、衛生、教育など)を服の企画、生産、販売を通じて解決する」というものだ。貧困層が購入可能で高品質な衣料品を提供するとともに、雇用を生み出し生活改善を支援していくという。グラミン銀行とは、周知のとおり2006年にノーベル平和賞を受賞した、BOPビジネスの先駆的な存在。同行との合弁事業は、収益を地域の社会課題解決に再投資するという特徴をもつ。
 
 これまで、企業は社会の課題やNGO/NPO等の活動団体に対して、資金や人手の提供を通じて関わる場合が多かった。しかし近年では、事業そのものや人材・ノウハウ等のリソースを社外に積極的に活用していく動きが目立っている。最近では、NPOの抱える課題の解決に専門的な知識・スキルで協力するプロジェクトを立ち上げている企業の取組みが話題になった。社員から有志を募り、一定期間内に一定の時間を割いてNPOの活動を支援し、付加価値の高いアウトプットを出すというものである。
 
 このような動きの布石となったのが、阪神・淡路大震災を契機とするボランティア活動の活発化、NPO活動の発展、そしてビジネスの手法を活用して社会課題の持続的な解決を図る「ソーシャルビジネス」「社会起業家」の拡大という流れではないだろうか。日常ではさほど接点のない"they"に対し、関心を寄せ、彼らの痛みや抱えている課題を感じ取り、目をそらさず、痛みの緩和や課題の解決にさまざまな手段で踏み出していく"I"が増えてきた。このような、ボランティアや社会起業家といったいわば個人中心の「Iのtheyへの接近」があり、それらがいま、企業組織の"they"への接近へと合流してきたように見受けられるのだ。
 
 もちろん事業の拡大、グローバルでの生き残り、人材の育成とモチベーション向上、CSRの推進など企業ならではの狙いもあろう。しかし、狙いはどうあれ、一市民として、社員として、事業として、さまざまな形態で社会課題に向き合う機会が今後広がっていくことになろう。私たちが互いに"they"に対する感受性を高め、問題解決力や行動力も身につけていった先には、少しずつ良いほうに変わる世界が見出せるかもしれない。

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 夏休みの自由研究、いまやテーマやツールを紹介するウェブサイトが豊富にあると聞き、いくつか覗いてみた。理科の実験・観察、工作、住んでいる街の調査などに混じって、ユニバーサルデザインやボランティア活動、募金について調べる、というものも。ここにも"they"に接近する"I"が育つ小さな兆候が見えた。
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