COLUMN

2010.10.01田口 智博

シリーズ「ソーシャル・ニーズ」#2カスタマイズできるソーシャル・ニーズの創造

 前回の中間さんのコラムで触れられていたように、これからの時代のニーズとして「環境」、「健康」、「安心・安全」といったキーワードを耳にする機会は増えている。
 見方として、これまでもこうしたニーズが必ずしもなかったということではないにしろ、社会が成熟していく中で、より顕在化してきているということであろう。いわゆる、物質的な豊かさを維持しつつ、精神的な豊かさへのシフト。また同時に、これらのキーワードから感じることは、相互の関係性の強さということである。たとえば、人は「健康」であれば「安心」できる、また、取り巻く「環境」が良ければ「安全」の意識は高まる――といった至って当たり前の繋がりがあることである。
 このことは、これからの時代をみていく上で、社会におけるさまざまな要因が巡りめぐって"循環"するようなイメージを持つ必要性を示唆しているように感じる。

 では、そうした中で、「ソーシャル・ニーズ」ということをどのように捉えて、創造していけばいいのだろうか。
 ここで思うことの一つとして、昔の時代のように汎用性が高く、万人受けするような「ソーシャル・ニーズ」というものは、そもそも今後、技術が高度化したとしても、なかなか創造しづらくなるのではないか、ということである。

 たとえば、前回コラムにも紹介されていたオムロンが過去に開発した自動改札システムは、まさにソーシャル・ニーズの創造の賜物である。この7月には、(社)日本機械学会から、「機械遺産」として認定もされ評価されている。
そこから一歩考えを進めて、では、この自動改札システムにICカードをかざすだけで通ることができるシステムを加えたものは、ソーシャル・ニーズの創造といえるだろうか?つまり、列車の乗り降り時のICシステムということになるが。個人的には、これは「Yes」とも「No」とも言えないと感じている。それは何故か。その理由は、東京のような大都市であれば、多くの人がその利便性を享受することができるため、当然「Yes」となる。一方、地方都市などに目を移すと、そうした技術はあるもののシステム導入に際してコスト面でペイしないなどが原因となって、その技術が部分的にしか取り入れられていなかったりする場面を見かけるからである。したがって、この場合、質問に対してはそもそも判断できない、もしくは「No」という答えにならざるを得ない。

 あくまで一面ではあるが、今挙げたような都市と地方といったようなシチュエーションが異なる中では、従来のように「ソーシャル・ニーズ」というもの自体がなかなか定義しづらくなっている。また、そうなると必然的に創造するといったことも難しくなるということである。

 しかし、ここにヒントになることが少なからずあるように思う。それは、「ソーシャル・ニーズ」とは、必ずしも高度な技術を追求すれば良いというわけではなく、もっと根源的なことへの感知から創造されうるべきということである。
たとえば、地域の活性化の取り組みを例にすると、地域ごとに多様性に富んださまざまな問題を抱えているため、それらを踏まえた打ち手を考えていくことが求められる。その際、全く新たなものではなく、他の地域を見習いつつその土地に応じたカスタマイズされた打ち手を講じることがしばしば見られる。同様にして「ソーシャル・ニーズ」においても、根源的な創造を行い、それをベースにさまざまなシチュエーションに応じてカスタマイズできるようなものが、これからは望まれるのではないだろうかと思うからである。

 「ソーシャル・ニーズ」を考えていくにあたっては、これからの未来社会、中でもそれぞれに特徴ある地域において、冒頭で述べたように、循環していく社会の中でそれが上手く取り入れられるようなイメージを膨らませることが、足掛かりとして大切になってくるに違いない。
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